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健康セミナー
2016年分

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第253回:『血小板の話』

内科 西田 淳二
(内科認定医)

 出血がどうして止まるかご存知でしょうか?止血には血小板と凝固因子(凝固タンパク質)という血液中の2種類の成分が必要です。血小板は赤血球の5分の1程度のサイズの小さな断片で、血管内を流れています。
 血管が破れると、血小板はその破れ目にペタペタとくっついて大まかに出血を止め、さらに血中に溶けている凝固因子を自分の周りに糊状に固めて隙間を埋めるのです。この働きは、堤防を修理する際に積むブロック(血小板)と、その間を埋めるセメント(凝固因子)に例えることができます。そういうわけで、血小板が減りすぎると出血が止まらなくなります。
 健康な人は血液1立方㍉・㍍あたり20〜30万個の血小板があります。これが1万未満になると皮下出血や歯肉出血などが自然に起こるようになり、さらに数千に減少すると消化管や肺や脳に出血して命の危険が生じます。白血病や抗がん剤治療中や、ある種の血液の病気でこのようなことが起こります。
 ところで正常の血小板数(20万)は、危険域(1万未満)に比べて多すぎると思いませんか?これは大昔、人間が狩りをしていて大怪我を負った際の止血に必要だったのです。現代人の普通の生活にとってはむしろ大過剰で、血小板が刺激された拍子に血管の中で血が固まってしまうという、血栓症が問題になっています。脳梗塞や心筋梗塞などが血栓症の例です。また、血小板が腫瘍性に増える本態性血小板増加症という病気では血栓症が増加します。血栓症の予防や治療には、血小板や凝固因子の働きを抑える、いわゆる「血液サラサラの薬」を飲まなければなりません。

第252回:『盲腸(虫垂炎)とまちがいやすい腸の病気~大腸憩室炎~』

外科 近藤 純由(いと) ☆
(日本外科学会専門医/指導医 日本消化器外科学会専門医 日本大腸肛門病学会指導医 日本消化器内視鏡学会専門医/指導医)

 急にお腹が痛くなって病院にかかったら、「盲腸(虫垂炎)ではないので切らなくても大丈夫ですよ」と医者から言われてほっと胸をなでおろした経験をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。
 この虫垂炎とまちがいやすい病気のひとつに大腸憩室炎があげられます。
 憩室とは胃や腸の壁がふくらんでできた小さなこぶ状の部屋を差します。大腸の憩室は筋肉のない薄い壁のため、こぶ状の部屋に便がつまることで炎症をひき起こします。
 右側(盲腸から上行結腸)と左下(S状結腸)にできることが多く、右側の大腸憩室炎が起きると虫垂炎と似た症状がでます。
 虫垂炎なのか憩室炎なのか、または他の病気なのか、腹部超音波検査や腹部CT検査などを総合して判断した上で、手術が必要かどうか治療方針を決めていきます。
 大腸憩室炎は禁食で点滴治療を行うことで治ることが多いのですが、壁の薄いところが破れたり、膿がたまってしまった場合は手術が必要となることがあります。また、炎症がひどい場合、大腸癌と見分けが難しいこともあります。
 憩室炎を繰り返すことで大腸が硬くなり、便通異常をおこす場合もあります。大腸内視鏡検査や注腸検査で憩室の有無を確認することができます。頻度としては大腸憩室があっても症状がでない方が多いのですが、ご心配な方はお近くの医療機関でご相談ください。

第251回:『気になる口の臭い』

歯科口腔外科 田中 憲一

 普段から口臭が気になっている方、家族に口臭がすると指摘されたことがある方は多いと思います。気になり過ぎると人と話すのが苦痛になり、不安・恐怖心に悩まされる方もいます。
 口臭の原因は口腔内のはがれた粘膜や食べかすのタンパク質が口腔内の細菌によって分解されてできた硫化水素やメチルメルカプタン、ジメチルサルファイドなどの物質です。これらは唾液の分泌が減少する夜間や緊張が連続する仕事中などに増加します。
 糖尿病や胃腸などの全身の病気や妊娠・生理などのホルモンの変化と関連がある場合もありますが、それは極めて稀で原因のほとんどは口腔内にあります。原因としては以下のようなものが考えられます。
1.磨きの残しのためプラークが増殖
2.歯周病のため歯周ポケット内で細菌が増殖
3.扁桃腺のくぼみに剥がれた粘膜、食べかす、細菌が増殖し固まった膿栓
4.舌の表面の絨毛状の組織に粘膜、食べかす、細菌が苔のように白く固まって張り付いた舌苔
5.ニンニクやアルコールなどの食品
 口臭の改善には、虫歯の治療や歯周病の治療がまず必要ですが、他にも効率的な歯磨きの仕方の練習や、洗口液の利用、舌みがきが有効です。
 歯磨きはしても舌を磨かない方が大半のようです。歯ブラシもしくは専用の舌ブラシを使用して舌の表面を奥から手前に数回なでるようにやさしく清掃してください。
 口臭対策は社会人としてのマナーでもあります。しっかり治療、ケアをして自分に自信を持ってください。

第250回:『ドライマウスのセルフチェックをしてみましょう』

歯科口腔外科 秋月 弘道
(日本口腔外科学会指導医 日本口腔外科 学会専門医)

 口腔乾燥症(ドライマウス)の原因には口呼吸、摂取水分量の不足、シェーグレン症候群など自己免疫疾患、糖尿病、腎不全などの病気、睡眠薬、精神安定剤、抗うつ剤などが挙げられます。
 口腔乾燥症のセルフチェック(自己診断)をしてみましょう。次の症状が3個以上あれば口腔乾燥症の可能性が高いと考えられます。①口が渇く(唾液が出ない)②口が渇いて話がしにくい③食事の時に飲み物が必要である④夜間、飲水のために起きる⑤舌がひび割れる⑥味覚が変わった⑦口角炎を起こしやすい⑧口臭が気になる⑨虫歯がたくさんある。
 3個以上あてはまる場合は、専門の病院を受診しましょう。口腔乾燥症は唾液分泌量の測定、口腔内の診査、血液検査、口腔内細菌検査などを行い診断します。治療としては唾液の分泌を促す薬の処方や専門的な口腔ケアを行います。他の病気や薬の副作用が原因の場合は、専門の診療科と併診します。
 また、お口に潤いを与える口腔保湿剤の使用が有効ですが保湿剤には、たくさんの種類があります。症状や使用する環境に合わせて適切な保湿剤を選択することが重要ですので、そのアドバイスを行います。
 唾液分泌を促進するには唾液腺のマッサージも有効です。耳の前にある耳下腺、顎の下にある顎下腺、舌の下にある舌下腺のマッサージ法を指導します。日常生活では、自律神経のバランスを整えるために規則正しい生活を心がけます。
 唾液が減少すると、虫歯や歯周病などにかかりやすくなるため、日々の口腔清掃をしっかり行うことも大切です。

第249回:『腸内細菌(腸内フローラ)の役割』

総合診療科 濱田 節雄
(指導医:日本外科学会 日本消化器外科学会 日本消化器内視鏡学会 日本大腸肛門病学会 日本消化器病学会)

 最近、腸内細菌の研究が急速に進んでいます。テレビをつければ腸内細菌、ビフィズス菌、悪玉菌等よく耳にします。腸内細菌はその名の通り、腸(小腸の終わりから大腸)の中で生きる細菌の事で、私達人間の腸内には1000種類以上、なんと100兆個以上存在しています。腸内細菌は肥満、糖尿病、動脈硬化、血栓、老化、肌の若さ、アレルギー、うつ病、認知症、薄毛、癌と現代人の関心の高い健康の問題と悉く関係しているとされています。
 腸内細菌には善玉菌と悪玉菌があります。腸内で善玉菌が悪玉菌より優位に保つのが理想的です。では善玉菌を増やすにはどうしたらいいでしょうか。
 善玉菌の栄養源は主に食物繊維で穀物、イモ類、豆類、海藻類やキノコ類、こんにゃく、ごぼう、人参等に多く含まれます。また、食物繊維の他にオリゴ糖も善玉菌の栄養源です。オリゴ糖はネギ類、ごぼう、アスパラガス、とうもろこし、豆類、バナナ、牛乳、蜂蜜等に多く含まれています。
 また、ヨーグルトや乳酸菌飲料、納豆やキムチなどの発酵食品も善玉菌を増やします。悪玉菌は肉類の蛋白質や脂肪を餌に生育し、有害物質を放出します。
 また、ストレスも悪玉菌を増やす原因の一つです。過度なストレスを感じると消化液の分泌が抑制され悪玉菌の増殖を促してしまいます。
 バランスの良い食生活を心がけ、なるべくストレスをためこまないような生活を心がけましょう。

第248回:『嗅覚障害について』

耳鼻咽喉科 合津 和央 ☆
(日本耳鼻咽喉科学会専門医)

 風邪をひいて鼻づまりがある時、食事が味気なく感じた経験は誰にもあろうかと思います。一過性ですぐ改善する嗅覚障害は心配ありませんが、嗅覚障害が続くと腐った食べ物やガス漏れに気づけない危険があり、治療する必要があります。
 嗅覚障害のある患者さんに対し、耳鼻科医は内視鏡で鼻の中を見て鼻閉の有無をまず診断します。花粉症や、副鼻腔炎(蓄膿症)がある場合は薬の内服や鼻の中への薬剤の吸入で数か月の通院治療が必要です。
 喘息持ちの方に好酸球性副鼻腔炎という病気が最近急増しています。これは抗生剤が効かない副鼻腔炎で治療には内服のステロイドホルモン剤が有効です。
 鼻閉のない嗅覚障害の代表的なものとして頭部外傷後の嗅覚障害、風邪が治った後の嗅覚障害などが挙げられます。前者は治りにくい疾患ですが、後者は当帰芍薬散という漢方薬が8割程度は有効です。
 今までは原因不明とされてきた嗅覚障害の中にアルツハイマー型認知症の初期の症状が紛れ込んでいる場合があることが最近の研究でわかってきました。脳の中で匂いを認知する部分が真っ先に退化するため嗅覚障害が先に起こります。まずモノの匂いはしてもそれが何の匂いだかの区別がつかなくなり、ついで匂いの感覚全体が低下し、数年して物忘れの症状が出てきて、最後にようやく認知症と診断される方がいらっしゃいます。とはいえ嗅覚障害=認知症というわけではもちろんありません。
 嗅覚障害はまずその原因をしっかり診断することが大切です。最近どうも匂いが分からないとお悩みの方は、まずは最寄りの耳鼻咽喉科にご相談ください。

第247回:『乳がんの検査について』

外科 長谷川 久美
(日本外科学会専門医/指導医 日本消化器外科学会専門医/指導医 日本消化器病学会専門医 日本がん治療認定医機構がん治療認定医 マンモグラフィ読影認定医)

 乳がんは最近増えてきていますが、早期に発見できれば予後のよいがんです。みなさんは乳がんの検査を受けたことがありますか?
 乳がんの検査としては、視触診のほか、マンモグラフィ(レントゲン)とエコー(超音波)の二つがあります。
 マンモグラフィでは、2方向に乳房をはさんで伸ばしてレントゲンをとります。人によっては痛みを伴いますが、よく伸ばすほどよい写真になります。マンモグラフィでは乳腺は、黒い脂肪の中に、ぼうっと白く写ります。その中にがんがあると、がんはたいてい乳腺より白く、ぎざぎざしています。がんが変性をおこしてカルシウムが沈着すると白いツブツブ(悪性の石灰化)が見られることもあります。若い授乳期には乳腺は真っ白ですが、年をとると乳腺は脂肪におきかわり黒っぽくなります。そのため高齢者では癌が発見しやすく特に有用です。
 エコー検査は、乳房にゼリーをつけて直接探触子(プローベ)をあてて乳腺の内部を調べます。ちっとも痛くありません。エコーではグレーの正常乳腺のなかに、がんは黒っぽいいびつなしこりとして写ります。また内部の様子や血のめぐりがより詳細にわかります。何か気になっても触診、マンモグラフィとエコーで異常がなければ一安心です。お気軽に乳腺外来にお声掛けいただければ幸いです。

第246回: 『五十肩の話』

整形外科 篠﨑 晋久 ☆
(日本整形外科学会認定整形外科専門医)

 中高年の肩痛は一般的に「五十肩」と言われます。もちろんその他にも頚部の神経痛や内科疾患の関連痛のこともありますが、今回は整形外科的な「肩」の疾患についてのお話しをします。
 五十肩という言葉自体は江戸時代から使われており、「凡そ、人五十歳ばかりの時、手腕、骨節痛む事あり、程過れば薬せずして癒ゆるものなり、俗にこれを五十腕とも五十肩ともいう。また、長寿病という」と言われていることから100年以上前からよくある疾患であったようです。しかし正確には五十肩は正式な病名ではなく、「風邪」や「腹痛」などと同じで「50歳前後で肩が痛い人」をまとめて五十肩と言ってしまっているようです。
 よく五十肩は自然に治ると言われていますが、約半数のひとは2年以上痛みが続いているようで、痛みや動きの制限が残る人もいます。
 五十肩の症状としては肩を上げたり回すときに痛む「運動時痛」のほかに、就寝時に痛くて眠れないことや寝返りのときに痛みで起きてしまうなどの「夜間痛」も出ることが多く、日常生活に大きな支障をきたします。近年はMRI、超音波などの画像検査が進歩した結果、「腱板断裂」や「石灰性腱炎」などいろいろな疾患が鑑別できるようになり、治療手段も増えています。なかでも「腱板断裂」は徐々に断裂サイズが広がり、最終的に肩が上がらなくなってしまうこともあるため、なかなか治らない肩の痛みで困っている際には、末永く健康的な生活を送るためにも早めに整形外科受診をお勧めいたします。

第245回: 『最近の「大腸ポリープ・大腸がん」の話』

外科 兼子 順
(東京医科歯科大学医学部臨床教授 日本外科学会専門医/指導医 日本消化器外科学会認定医 日本消化器内視鏡学会専門医 厚労省認定臨床研修指導医)

 国立がん研究センターは、2015年に新たにがんと診断される数を示す罹患数と死亡数の予測を算出し公開しました。部位別罹患数(新たにがんと診断される数)は男女計で多い順から、1位:大腸、2位:肺、3位:胃の順でした。部位別死亡数(がんで亡くなる人の数)は男女計で多い順から、1位:肺、2位:大腸、3位:胃の順でした。罹患数、死亡数ともに胃がんと肝臓がんの順位が下がり、肺がんと大腸がんの順位が上がっています。大腸がんは腺腫という良性ポリープの一部ががん化するものと、正常粘膜から直接発生するものがあります。大腸がんや大腸ポリープの発見に関しては、便に血液が混じっているかどうかを検査する「便潜血検査」が有効であることが明らかになっており、症状が出る前に検診などで早期発見が可能です。早期に発見できれば、がんになる前のポリープやがんを完全に取り除ける可能性が高くなります。当院では開院以来27年にわたって、出来るだけ苦痛を伴わない意識下鎮静法という方法で大腸内視鏡を施行して参りました。おかげさまで、全国病院別治療実績ランキングにおいて、埼玉県内の病院で大腸の良性腫瘍に対する治療実績で、当院は9番目の治療実績があると公開されております。ご自身の健康状態を維持するためにも検診を毎年受けていただき、大腸の検診は便潜血でスクリーニングされ、便潜血が陽性であれば意識下鎮静法による大腸内視鏡検査をお勧めいたします。

第244回: たかが頭痛 されど頭痛

総合診療科 山形 健一
(日本外科学会専門医 日本消化器内視鏡学会専門医 日本消化器外科学会認定医 日本癌学会会員)

 頭痛とわれわれ人類は切っても切れない関係にあり、現代では国民の約4人に1人が何らかの頭痛で悩んでいます。歴史を紐解いてみても、国宝・三十三間堂は後白河法皇の頭痛を治すために建てられたという説がありますし、石川啄木や芥川龍之介もひどい頭痛もちであったことが知られています。しかし頭痛が症状ではなく疾患として認められるようになったのは、なんと20世紀の後半になってからなのです。実際、風邪や二日酔いくらいの頭痛しか経験したことのない人にとっては、片頭痛に悩まされている人のひどい痛みや吐き気などは想像できないでしょう。そこで頭痛を一つの疾患単位として検討しようと、1997年に「日本頭痛学会」ができました。頭痛は種類の多い疾患ですが、片頭痛や緊張型頭痛などの一次性頭痛と、クモ膜下出血や脳腫瘍などの頭蓋内病変や頸部・眼・耳・副鼻腔などの病変に関連する二次性頭痛をしっかり鑑別することが大切です。眼の周りやこめかみ、額のあたりがずきんずきんと血管が拍動する感じで痛くなり、光や音が頭に響いたり頭痛の前にきらきらと光が見えたりするのは片頭痛の特徴です。頭の後ろからてっぺんあたりが毎日ぎゅーっと締め付けられるような感じで痛くなるけれど、お風呂に入ったりして血の巡りが良くなると軽くなるのは緊張型頭痛の特徴です。頭痛の90%以上は一次性頭痛ですが、生命に関わることがあるのは二次性頭痛です。危険な頭痛の徴候は、今まで経験したことのないような激烈な頭痛・50歳以降で初めて生じた頭痛・しだいに増悪する頭痛・突然発症の頭痛・麻痺などの神経症状、精神症状を伴う頭痛・発熱、視力障害、他の部位の疼痛を伴う頭痛・早朝からの頭痛などです。たかが頭痛されど頭痛。頭痛はほっておかず生涯現役!

第243回: 人工肛門にならない直腸癌の手術

外科 遠藤 健 ☆
(日本外科学会専門医/指導医 日本消化器外科学会専門医/指導医 消化器癌外科治療認定医 日本大腸肛門病学会専門医/指導医)

 日本人の死因の第1位は癌です。なかでも食事の欧米化等に伴い大腸癌は年々増加傾向にあり年間約12万人の方がこの病気に罹り、癌による死亡数は女性で第1位、男性で第3位と報告されています。一方大腸癌は比較的おとなしい癌の代表でもあり肝臓、肺、腹膜等への転移がなければ約8割の方は手術で治すことができます。しかし直腸癌となると人工肛門が連想され「手術はいいけれど人工肛門にはなりたくない」と考えるのはしごく当然のことです。大腸の最後の部分で肛門から約20㎝前後の部位を直腸と呼びますが吻合器の発達により肛門からの距離が5㎝以上あれば直腸癌でもお腹の中での吻合が可能で人工肛門にはなりません。しかし肛門から5㎝以内の癌では現在でも肛門ごと癌を取り除く直腸切断術が行われ、この手術では一生人工肛門となります。最近になり、このような直腸癌の方に対して肛門機能を温存した括約筋間直腸切除術(内肛門括約筋切除術 ISR)という内肛門括約筋と外肛門括約筋との間で直腸を切除して直腸癌とリンパ節を切除する手術が行われる様になりました。この手術法の登場によりこれまで人工肛門が必要とされた約8割の方は自然肛門からの排便が可能です。私はこれまでにこの手術を100名以上の方に行ってきましたが、多少の便漏れ、ガス漏れがあるものの、手術後6か月もするとほんどの方が日常生活の制限なしで過ごせるようになり、満足度は良好です。

第242回: 新年のごあいさつ

理事長 前島 静顕 ☆
(東京医科歯科大学大学院臨床教授 埼玉医科大学外部講師 日本外科学会認定指導医 日本消化器外科学会認定医)

 新年明けまして、おめでとうございます。皆様、お健やかに新春をお迎えのことと存じます。
 年頭にあたりまして、昨年大筋で合意をみましたTPP(環太平洋経済連携協定)と医療問題についてお話させていただきます。
 関税、ヒト・モノの移動自由化による諸問題が懸念されていますが、実は、もっとも問題視されるべきことは、わが国の医療制度に対する影響であろうといわれています。現在の日本の医療制度は国民皆保険制度と言って、所得の多い人も少ない人も平等の負担で医療が受けられる、世界中で比較して最も優れた医療制度になっています。医療の自由化により外国企業が医療に参入し、一律3割負担が崩れ、混合診療(保険診療と保険適用外診療の併用)が拡大し保険適用外医療が増え、所得の低い人には十分な医療が行き届かなくなるおそれがあります。誰が得をするのかと言えばアメリカの保険会社になりましょう。医療機関についても保険適用範囲内の診察を受けられる医療機関が淘汰される可能性も出てきます。医師会、医療機関、医療従事者が英知と力を結集しその対策を講じねばならない時期が間違いなくきています。
 本年4月には2年に1回の診療報酬の改定、薬価引き下げ等の法改正があり、ますます医療を取り巻く環境が厳しくなりそうですが、私の信念でもあります地域医療の充実に向け、医療・介護・在宅医療との連携による地域完結型の医療の実現をめざし、また、2年後の蓮田病院創立30周年を目標として精一杯尽力する決意です。
 平成28年は十二支では申年(さる年)です。厄難がさる年、災いがさる年との謂れもあります。良い年にしたいと思っています。
 地域住民の皆様方のご健康とご多幸を心より祈念申し上げます。

当院は今後さらなる医療の発展のため、ソフト面の整備の充実をはかり、
当院の設立の原点である「思いやりのあるやさしい医療」と「最新の高度医療」の実現に向けて努力を続けていきます。

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