健康セミナー
2023年分
- 第336回:『高齢者の歯科治療』
- 第335回:『アルコールと肝臓病』
- 第334回:『栄養障害について』
- 第333回:『ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎の診断』
- 第332回:『手足のしびれの話』
- 第331回:『病院の選び方~手術が必要な場合①~』
- 第330回:『ヘリコバクター・ピロリについて』
- 第329回:『薬剤性顎骨壊死(MRONJ)てなあに?』
~最新の顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023から~ - 第328回:『検診受診率向上による、がん死亡者数低下』
- 第327回:『元気の素、甲状腺ホルモン』
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第336回:『高齢者の歯科治療』
歯科口腔外科 田中 憲一
高齢社会と言われる現在、高齢者の歯科治療は日常的におこなわれています。別に高齢だからと言って特別扱いするな!と思われるかもしれません。しかしながら、お元気そうに来院される高齢者のほとんどが有病者であるのが実態です。高血圧患者の術中異常高血圧、糖尿病患者の創部感染、抗血栓薬を服用している脳梗塞・心筋梗塞患者の創部出血等のリスクがあることは皆さんご存じだと思います。最近、特に注意が必要なのは骨粗鬆症やがんの骨転移による高カルシウム血症の治療に使用される骨吸収抑制剤です。錠剤、ゼリー、点滴、静脈注射など様々なタイプがあります。長期の使用により骨吸収抑制薬関連顎骨壊死と言われる骨髄炎となりアゴの骨が口腔内に露出、重症になると顔に穴が開き排膿してしまう事があります。細菌感染に起因するので、予防するには副作用の出現リスクのある骨粗鬆症の薬を使用開始する前に、口腔内検査、歯科治療、口腔ケアが重要となります。ある種のリウマチ治療薬の副作用で節外病変としてリンパ腫が口腔粘膜に発症することもあります。薬の使用を中止しても変化無い場合は悪性腫瘍としての治療が必要になります。がんのため放射線治療をしたことのある患者様は放射線性骨髄炎となりアゴの骨が腐った様な状態となってしまうこともあります。薬の服用情報は歯科医療の治療方針を決めるための有力な情報となります。歯科を受診される場合もおくすり手帳などを必ず持参し、定期的な点滴、注射や放射線治療、抗がん剤治療の情報などを事前に文章にまとめておいて提出されると診察がスムーズになります。高齢者の安全な歯科治療のためには慎重な情報収集と血液検査などのデータが必要となります。
第335回:『アルコールと肝臓病』
内科 村木 輝(日本肝臓学会肝臓専門医 日本消化器病学会消化器病専門医 日本外科学会外科専門医 日本消化器外科学会消化器外科専門医・消化器がん外科治療認定医 日本消化器内視鏡学会消化器内視鏡専門医 日本消化管学会胃腸科専門医 日本がん治療認定医機構がん治療認定医 日本医師会認定産業医)
食欲の秋ということで美味しい料理とともに様々なお酒を嗜まれる方も多いのではないでしょうか。しかしながら、吉田兼好の随筆「徒然草」に「百薬の長とはいへど、よろづの病はさけよりこそおこれ」という一文があるように、お酒が病気の原因となることは昔から認識されていたようです。なかでもアルコールによる肝臓病は頻度が高く、日常診療でも遭遇しやすい疾患と言えます。アルコールの分解産物であるアセトアルデヒドを分解する酵素としてアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)がありますが、ALDHにはアセトアルデヒドが増加して働くALDH1と少量のアセトアルデヒドでも働くALDH2のタイプがあります。
日本人は約40%の人がこのALDH2の活性が弱い「低活性型」であってお酒に弱い体質であること、また4%の人は「不活性型」であり全くお酒が飲めない体質であることが判明しています。ただし、「低活性型」であっても慢性に飲酒を続けるとミクロゾームエタノール酸化酵素(MEOS)という別の酵素の活性が誘導され、お酒が弱い人でもある程度飲めるようになってしまいます。しかしながら、このMEOSはアルコールを分解する過程で多量の活性酸素を産生するため、肝細胞が障害されやすいことがわかっています。はじめはアルコールによる脂肪肝であっても、アルコールの過度な毒性に晒され続けると肝硬変へと進化し、肝臓の機能が一生戻らなくなってしまうこともあります。節度ある適切な飲酒量は一日純アルコールで約20gとされており、ビール中瓶500ml×1本程度、日本酒1合程度と言われています。お酒は適度な休肝日を設けて適量で楽しむようにしたいものです。
第334回:『栄養障害について』
内科 丸野 要(日本外科学会指導医/専門医 日本消化器外科学会指導医/専門医 日本がん治療認定医機構がん治療認定医 日本乳癌学会認定医)
栄養障害は低栄養状態ともいいます。これには2つのタイプがあります。マラスムスとクワシオルコルです。マラスムスは長期間の蛋白質・エネルギーの両方が欠乏することによっておこります。蛋白質合成の原料も少なく、また合成するエネルギーも少ない状態で、開発途上国の乳児や小児にみられる飢餓の状態です。著明な体重減少、脂肪および筋肉組織の減少がおこります。そのわりには血清アルブミン値は正常に保たれ、浮腫もおこりません。飢餓以外には長期間栄養が摂取できていない消化器悪性腫瘍の終末期にみられます。
次にクワシオルコルですがエネルギーに比して蛋白質摂取が不足している状態です。つまりエネルギーは十分あるが、蛋白質が合成できない状態です。貯蔵エネルギーである脂肪は減少せず、皮下脂肪は保たれており、脂肪肝となることがあります。しかし、蛋白質は合成できないので低蛋白血症となり、浮腫や腹水を伴うことがあります。これはエネルギー利用と蛋白質合成のアンバランスによるもので、様々な侵襲が加わった時(手術後、外傷後、熱傷後)におこります。
このような病態時には、蛋白質とエネルギーの供給に問題がなくても、脂肪代謝や蛋白代謝が障害され蛋白質の崩壊が合成をうわまわることにより、低蛋白血症となり浮腫が出現し、体重はむしろ増加します。マラスムスに対しては蛋白質とエネルギー源となる脂肪や炭水化物およびビタミン、微量元素を同時に補給します。クワシオルコルに対してはエネルギー源となる脂肪や炭水化物は不足していない場合が多いので、原因となる病態を治療したあと蛋白質を中心に補給します。
第333回:『ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎の診断』
総合診療科 濱田 節雄(指導医:日本外科学会 日本消化器外科学会 日本消化器内視鏡学会 日本消化器病学会 日本大腸肛門病学会 認定医:日本ヘリコバクター学会H.pylori(ピロリ菌)感染症)
ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎の診断ヘリコバクター・ピロリ(以後ピロリ)感染胃炎は「胃がん」が発生し易くなると考えられています。
胃カメラでピロリ感染を疑い、ピロリ感染確定診断には胃カメラを用いない方法が、最近は行われています。胃カメラを用いない方法には「尿素呼気テスト」「便中ピロリ抗原」「抗ピロリ抗体測定(血液・尿)」(以後抗体)があります。
「尿素呼気テスト」と「便中ピロリ抗原」は精度が高く、感染診断及び除菌診断で優れています。「抗体」は簡便で、検診等のスクリーニングに用いられていますが、「現在のピロリ感染状態」を反映するものではないとされています。そのため除菌治療前には、「抗体」が陽性だからといって除菌を行う事は推奨されていなく、現感染を診断できる「尿素呼気テスト」か「便中ピロリ抗原」で、陽性を確認する必要があります。しかし、両検査とも胃酸分泌を強く抑える薬が影響を及ぼすため、検査2週間以上前より休薬しないといけません。「抗体」は胃酸分泌を強く抑える薬の影響を受けにくく、薬の中止は必要ありません。
尚、除菌後の判定には「抗体」は年単位でゆっくり低下されるため適切ではなく、「尿素呼気テスト」と「便中ピロリ抗原」が除菌判定には必要です。適切なピロリ感染診断検査が重要です。
第332回:『手足のしびれの話』
整形外科 寺山 恭史(日本手外科学会認定手外科専門医 日本整形外科学会認定整形外科専門医 日本整形外科学会認定リハビリテーション専門医 日本整形外科学会認定リウマチ医)
日常生活において手足のしびれを自覚することは多く、その原因もさまざまです。正座の後のしびれは足の血流障害による末梢神経の一時的な障害によるものです。しかし、朝起きると手がしびれているけれど、そのうち消えてしまうとか、手作業をしていると手がしびれてくるが、手を休めているとよくなる、手を振るとよくなる、などといった症状は、病気によるしびれの可能性があります。
例えば手根管症候群という病気は、手首の靭帯により神経が圧迫をうけて障害される病気です。この病気は約4%の人がかかると言われています。病状の悪化に伴い、しびれの頻度や程度が増したりしびれの持続時間が長くなり常時しびれるようになったりします。さらに放っておくと指の動きが悪くなり、治療をしても指の運動麻痺や感覚の障害が治らなくなってしまうこともあります。
その他、しびれを生じる病気には、脳梗塞などの頭の病気、脊髄神経や末梢神経の圧迫、糖尿病や血流障害、神経そのものの病気などがあり、その種類により脳神経外科、整形外科、内科、神経内科などで診療しています。しびれの範囲は診断に非常に重要ですが、病院で診察を受ける時にはしびれが治まっていることもあります。しびれを感じた時には、しびれの範囲やどのような時に痺れるか、どれくらい続くかをメモしておき、診療の時に伝えられるようにしておくと診断がより確実になるでしょう。
第331回:『病院の選び方~手術が必要な場合①~』
麻酔科 上田 朋範 (日本麻酔科学会麻酔科指導医/認定医 日本専門医機構認定麻酔科専門医 臨床研修指導医・プログラム責任者 日本医師会認定産業医 難病指定医 蘇生学会指導医)
病院を選ぶ時、何を基準にしますか?
実は理想的な病院の選び方は病態や治療方針等によってケースバイケースですが、入院・手術が必要となった場合には自宅からの交通アクセスが非常に重要で、通いやすいかどうかも病院選びの重要なポイントの一つです。手術前には検査のため、何回も自宅と病院を往復する必要がありますし、場合によっては手術が終わってからも定期的な通院と診察、検査が必要になります。また、本人だけではなく、家族も病院に行く回数は増えてしまいます。家族の来院の目的はお見舞いだけではなく、手術中や術前・術後の病状の説明は家族が同席し、一緒に説明を聞いてもらう必要があることが一般的です。
入院時には頻繁に着替えを届けに行ったり、病状によっては事務手続きを家族が代行することも少なくありません。また、急激に病状が変化した場合で緊急手術が必要になったり、集中治療室に入室しなければならなくなると必ず家族に連絡が入ります。
患者さんが病気で長期間病院にかかることになった場合は「家族も比較的頻繁に病院に呼び出される」と思っておく必要があるため、患者さんご本人にとっても、ご家族にとっても自宅からの交通アクセスは本当に重要です。
一番いいのはけがや病気にならず、手術が必要な状況にならないことなので、健康には十分注意してください。
第330回:『ヘリコバクター・ピロリについて』
外科 長谷川 久美 (日本外科学会専門医/指導医 日本消化器外科学会専門医/指導医 日本消化器病学会専門医 日本がん治療認定医機構がん治療認定医 マンモグラフィ読影認定医)
ピロリ菌は、胃の粘膜に酸性の環境に適応して生息する特殊な菌で、1983年に発見されました。ピロリ菌のいるお母さんが口移しで与えた食べ物から、唾液を介して免疫が未熟な赤ちゃんに感染します。一方、大人には感染しません。 ピロリ菌がいても症状はありませんが、ピロリ菌は自分の周りにアンモニアの毒素を出して慢性胃炎を起こします。鳥肌胃炎といって粘膜は赤く腫れ、高齢者になると粘膜の萎縮が進み、すり切れたカーペットのように白っぽくなります。 ピロリ菌感染の胃では、潰瘍や胃癌になりやすく、特に胃癌は、放置すると80代までに約20人に1人が発生します。
ピロリ菌退治の方法は、一週間、抗生剤と胃酸を抑える薬を飲むだけです。8割方いなくなります。除菌できた胃は全く元通りとはいかないものの、つやつやと光沢が出てきます。 ここで重要なのは、たとえ除菌できても、既感染の胃粘膜ではくすぶった胃炎の背景から新しく胃癌が発生したり、除菌前から既に小さな胃癌が発生していたりして、除菌後も30%ぐらいは胃癌の発生リスクはあるということです。更に最近、除菌後の胃癌は、ポリープ型でなく、癌の表面がのっぺりと平坦で、更に粘膜下に浸潤して発見時にはより進行しているということがわかってきています。 ですから、除菌できた方は安心せず、一年に一度の上部内視鏡検査(胃カメラ)を受けて下さい。バリウム検査では、ピロリ菌退治のあと胃粘膜がかえってきれいに修復された後で、平坦型の胃癌が描出されず、適しません。
第329回:『薬剤性顎骨壊死(MRONJ)てなあに?』
~最新の顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023から~
歯科口腔外科 秋月 弘道 (日本口腔外科学会指導医/専門医)
骨粗鬆症の治療薬であるビスホスホネート製剤に関連しておこるBP関連顎骨壊死(顎の骨が死んでしまう病気)は増加しています。しかし近年、それ以外の癌や関節リュウマチに使用されるデノスマブ(Dmab)製剤、ロモソズマブや血管新生阻害薬、免疫調整薬、骨吸収抑制薬などの骨に関連する治療薬でも同様の症状が起きることがわかり、これらは薬剤性顎骨壊死(MRONJ)と呼ばれるようになりました。この病気が起こる頻度は悪性腫瘍に関連するもので数%、骨粗鬆症では0・1%と推定され、それほど高いものではありません。症状は、初期では軽度の疼痛や歯肉の腫脹が生じ、進行とともに骨の露出や炎症の悪化、さらには顎の骨折や皮膚から排膿が起こることもあります。これらの症状はおもに口腔内に見られますので、おもに歯科や口腔外科で診断加療されています。薬剤性顎骨壊死は、お薬を使い始める前に口腔内を精査して虫歯や歯周病を治療し、適切な口腔ケアをおこない細菌感染を防ぐことで予防できます。また、お薬を使用中に抜歯をする場合は、従来、予防的に一時的に休薬していましたが、最新の知見では休薬の有用性を示すエビデンスはなく発症リスクがとくに高い場合をのぞき、薬を止めずに抜歯をする方向に変わってきています。治療法については、軽症では抗菌薬の投与などでよくなる場合も多くあります。重症例では腐骨の除去など外科的治療がおこなわれます。治療は患者の希望や全身状態等を考慮して決定されます。これらのお薬は飲み始める前に歯科で治療すませ、口腔ケアを継続することで予防することができます。万一、病気が起きてしまった場合には早期に治療することによって顎骨への障害や侵襲および機能障害を最小限にすることができます。
第328回:『検診受診率向上による、がん死亡者数低下』
外科 兼子 順 (東京医科歯科大学医学部臨床教授 日本外科学会専門医/指導医 日本消化器内視鏡学会専門医/指導医 厚労省認定臨床研修指導医)
わが国では、がんによる死亡者数が多くても、がん検診の受診率は欧米に比べて低いのが現状です。日本では、女性のがんによる死亡原因のトップは大腸がんですが、その検診受診率は約23%です。また、男性では肺がんが死因の1位ですが、こちらも受診率は26%程度です。受診しなかった人の半数以上が、「心配ならいつでも受診できる」「時間が取れない」などを理由に挙げています。がん検診の普及拡大が、がんによる死亡者を減らすことにつながると見られています。
がんを早期発見し早期治療ができればメリットがあります。①手術も進行がんに比べて縮小手術が可能となり、乳がんなら乳房温存術、胃・大腸がんなら開腹せずに内視鏡でがんの部分を切除することも可能です。②手術・放射線治療・薬剤治療など治療期間や入院日数が短くなるので経済的負担も少なくて済みます。③職場への復帰も早く、家族への負担も少なく、治療後の日常生活にも影響が少なくて済みます。
蓮田病院検診センターでは、子宮がんを除く各種がん検診(肺・乳腺・胃・大腸)を行っています。人間ドックに至っては、ほぼ同じ検査内容で都内相場の約半額の4万8400円で検査できることと、蓮田市・白岡市在住の方は2万7000円還付により、実質2万1400円の支出、久喜市在住の方は2万8000円の還付により、実質2万400円の支出で人間ドックが受けられます。ご自身のためにも、ご家族のためにも、がん検診に関心を持ち、定期的に検診を受けましょう。
第327回:『元気の素、甲状腺ホルモン』
総合診療科 山形 健一
皆さん、元気ですかー!元気があれば何でもできる!!」偉大なるプロレスラー、故アントニオ猪木さんの名台詞ですね。
喉仏の下あたりにある柔らかい組織、甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンは元気を出すホルモンです。新陳代謝を良くしたり、心拍数を上げたり、体の活動性を増加させるホルモンです。ただ甲状腺ホルモンが過剰に分泌されると甲状腺機能亢進症になり、反対に分泌量が足りなくなると甲状腺機能低下症になります。 甲状腺機能亢進症の主な症状は、汗をかきやすく暑がり・動悸息切れ・軟便・イライラ・眼球のとびだし・手指のふるえ・筋力の低下などで、主な病名はバセドウ病です。甲状腺機能低下症の主な症状は、寒がり・やる気が出ない・便秘・物忘れが多い・瞼が腫れぼったい・皮膚の乾燥・脱毛などで、主な病名は橋本病です。どちらも自己免疫疾患のひとつで女性に多いのが特徴です。
亢進症ではホルモンの分泌を抑える内服薬を用いることが一般的ですが、副作用等の理由で使用できない場合は手術や放射線治療が選択されることもあります。低下症ではホルモンを補う内服薬治療が通常選択されます。
亢進症・低下症ともに共通している症状は疲れやすさ・喉仏あたり腫れ・女性の場合は月経異常などです。「うつ病」「更年期障害」と思っていたら実は甲状腺の病気だったということはよくあるようです。主な症状が複数自覚されるような場合は内分泌専門医の受診をお勧めします。
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